新たな道を切り拓くPwC卒業生に迫る~株式会社技術承継機構 藤井陽介氏編~
PwC Japan グループでキャリアを積んだ後、新たな道を切り拓いて活躍している卒業生がたくさんいます。どのようなスキルや経験が、その後の仕事に生かされているのでしょうか。
藤井陽介さんは、あらた監査法人(現 PwC Japan有限責任監査法人)卒業後に中国・東南アジアでキャリアを積み帰国。現在、中小製造業の譲受及び経営支援を行う株式会社技術承継機構に参画しています。今回のインタビューでは、現在の仕事に生きているPwC時代の経験と将来の展望について語ってもらいました。
蓄積したキャリアの集大成としての技術承継機構
日本では高齢化に伴う後継者不足により、廃業の危機に瀕している黒字企業が増加の一途をたどっています。日本の中小企業はおよそ336万社ですが、そのうち黒字の中小製造業は12万社存在します。技術承継機構は、事業承継に課題を抱えている有力な中小製造業の技術・技能を次世代につなぐことをミッションとし、企業の譲受および譲受後の経営支援に取り組んでいます。
技術承継機構は中学・高校の同級生である新居英一が立ち上げた会社です。創業者本人のパーソナリティ、会社の存在意義や成長可能性に面白さを感じて創業最初期から参画することにしました。また私はこれまで、会計、コンサルティング、投資の各領域を歩んできましたが、それらのキャリアの集大成として、技術承継機構で創業およびIPOに挑戦したいという思いがありました。
当社は製造業を営む会社の譲受を行う会社ですが、ファンドとは異なり譲り受けた会社を再譲渡しないことを最大の特徴としています。再譲渡を前提とするファンドはどうしても目線が短期的になり、必要な支出を怠るなど、企業経営において歪みを生みがちです。一方、技術承継機構は再譲渡しないという原則を徹底的に保持し、長期的目線を経営陣と共有しながら譲受企業の価値向上を目指します。
技術承継機構の社是は「スピード」「ポジティブ」「やりきる」の3つです。当社が掲げているコンセプト自体はそれほど複雑ではありません。ただ実際に会社を譲り受けた後に地道な改善活動を続けることは簡単ではなく、しっかりやりきる胆力・能力があるメンバーがそろっていることが我々の競争優位性であり、差別化ポイントだと自負しています。
1件目の譲受が完了したのは2019年11月でした。その後、コロナ禍を経て2024年1 月に10件目の譲受が実現しました。順調に事業を拡大できているのは、コロナ禍においても経営方針を曲げず会社の信用力を積み上げてきた結果だと考えています。
再譲渡しないという原則に加え、私たちは単語1つひとつの使い方も徹底しています。例えば、会社の譲受について投資や買収という言葉は用いず「譲受」と表現しますし、会社を譲り受けた後のプロセスについてもPMI(ポストマージャー・インテグレーション)という言葉は用いず「バリューアップ」と表現します。あくまで譲り受けた会社が主語であり、技術承継機構は無色透明の存在として中小企業のプラットフォームになることを目標としています。
量をこなしてやりきることで高まった仕事の質
私が公認会計士を目指そうと考えたのは大学1年の頃でした。社会的な信頼を得るために、何らかの資格が欲しいと思ったことがきっかけです。大学2年から勉強を始めましたが、試験範囲は広大で、大学3年の時に同期が就職活動をしている中で試験勉強に打ち込んでいたのは辛かったです。試験に合格したのは大学を卒業して1年目でした。大学の卒業式にも出ず、アルバイトで予備校費用を稼ぎながら勉強していた日々を今でも鮮明に覚えています。
公認会計士試験に合格し、あらた監査法人に入社したのは2007年12月です。入社の決め手となったのは、リクルーターだった方が語っていた「ITを駆使した監査の未来」というテーマです。当時、ITにも強い関心があった自分にとってこの話はとても新鮮で、普通の会計監査よりも面白いと思い入社を決心しました。
あらた監査法人では当時SPA(システム・プロセス・アシュアランス部 :現在のリスク・アシュアランス部)と呼ばれていたシステム監査をメインに遂行する部署を希望し配属されました。SPAではシステム出身のSEと会計監査出身の公認会計士がタッグを組んで、システム監査に限らずさまざまなアドバイザリー業務を行います。当時の監査法人の中では変わった部署だったと思いますが、そこでアソシエイトとして働いていました。
当時の仕事で最も印象的だったのは、アドバイザリーチームと組んで実施したフォレンジック調査のプロジェクトです。会計不正が行われた会社に入り込んで具体的な不正金額を固める業務です。
SPAはシステム領域を担当するので、基本的に仕事はパソコンとデータの中に限られています。不正に直面することは限定的ですが、フォレンジック調査で語られる従業員の方の話や金額はとても生々しいものでした。不正の手口や影響額について調査を通じて明確にする際に、初めてそれまでの会計監査業務だけからでは得られなかった、一味違う体験をしました。紙とデータの上でのみ理解していた数字が、非常にリアリティあるものとして理解できるようになったのです。
あらた監査法人では、公認会計士の見習いとして必要な帳簿の理解や表計算ソフトを扱うスキルが身についたと思います。今でも当時磨いたスキルセットは資産として役立っています。またソフトスキルとしては、どのようなプロジェクトにアサインされても最後まで働く胆力や、プロフェッショナルとしての精神性を学ばせていただきました。例えば、スポーツでは膨大な練習を行うことで、美しく無駄の無い動きを得ることができます。仕事も一緒で、体に染みつくほどの量の仕事をこなしていくことで、自ずとその仕事量が質に変化すると 個人的に考えています。PwC時代に学んだ「やりきることの大切さ」は、今でも私の自信につながっています。
目線を共有できる頼もしいネットワーク
何より、あらた監査法人は私が社会人として最初に入った会社です。キャリア初期段階で諸先輩方には丁寧にご指導いただき、仕事のイロハを叩き込んでいただきました。思い返せば、私は若輩者にも関わらず、周囲に対してストレートな物言いをしていました。 それでも根気強くご指導いただいた当時の上司の皆様には、今でも頭が上がらないです。
一部の同期や上司とは今でもつながりがあります。技術承継機構の管理部の一人はあらた監査法人の同期です。もう一人の同期には、譲受企業の税務・会計顧問を担当してもらっています。PwC出身の人材はバックグラウンドのチェックに多大な時間をかけることがないですし、何より目線や思いの共有がスムーズです。一緒に働いていてとても心強いです。
IPOを実現しグローバル規模で事業承継に取り組む
現在、技術承継機構はIPOの準備プロセスを進めており、開業届という紙一枚から始まった組織が日本の資本市場に出ようとするダイナミズムを現在進行形で味わっています。
IPOを実現することでさらに会社の信用度を上げることができ、譲受企業の視点から見た当社のイメージも大きく変化するでしょう。また大規模な資金を調達することができれば、数百億円、数千億円規模の企業も譲受対象となります。これまでとはスケールの異なる仕事をしていくためにも、IPOによる会社のパブリック化は、次なる大きな飛躍へのターニングポイントになると感じています。
IPO後は、海外企業の譲受も視野に入ってくると思います。当社メンバーの多くは海外での勤務や生活に抵抗が無いですし、事業承継という論点は全世界共通です。日本では製造業を中心に譲受を行っていますが、海外ではまた異なる業種・領域がテーマになるかもしれません。世界的に少子高齢化が進む国が増えていくなか、当社はグローバルかつより幅広い視点で企業価値を高めていきたいと考えています。
これからプロフェッショナルファームでキャリアを積もうと考えている皆様には、どのような現場においても個人として戦えるプロフェッショナルを目指して欲しいと願っています。そして個々のプロフェッショナルとしてのスキルを結集して、これから先もPwCブランドを高めていって欲しいです。
仕事を最終的に評価するのは、上司ではなくてクライアントであり、未来の社会です。目の前のクライアントと向き合い、期待を超えるレベルで仕事をこなし、結果を積み重ねていくことが、自身のさらなる成長機会の発掘や未来の社会を良くすることにつながると信じています。