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監査法人で実現した「なれると思っていなかった自分」

森 直子(もり なおこ)
PwC Japan有限責任監査法人 パートナー
銀行・証券アシュアランス部所属。現在、定期採用リーダー、I&Dリーダーを務める。2000年入所以来、一貫して金融機関に対する監査・アドバイザリーサービスに従事し、2010年より2年間、PwC 米国に赴任。

大学時代に公認会計士を志し、監査法人に入所して今年で22年目となる。振り返ると、当初の想像を超える経験を数多くさせて頂き、「なれると思っていなかった自分になれた」というのが正直な実感である。最初からうまくいったことよりも、苦労したことのほうが記憶に残っているが、嫌な記憶にはなっていない。それは、苦労した経験が、周囲の方々のサポートのおかげで、今の自分につながっていると思えるからだと思う。

大学を卒業する年に運よく当時の公認会計士2次試験に合格し、監査法人に入所した。自分には一番縁がなさそうな金融部をあえて志望し、外資系の証券会社にアサインされた。初日、先輩に連れていかれた会議室で、外国人のマネージャーとは挨拶するのがやっとであった。こうして会計士としての一歩を踏み出したが、あれだけ勉強してきたのに、本当にわからないことだらけ。金融のいろはも知らず、勘定科目も英語ばかりで、勉強してきたことだけでは全く歯が立たないと早々に思い知らされたが、励ましあえる仲間に救われた。

その後も外資系証券会社の監査を中心とするキャリアは続き、現場主査なども担当するようになり、できることがどんどん増えると、仕事が楽しい!と感じられるようになった。当初苦戦した外国人マネージャーやパートナーとのコミュニケーションにも抵抗がなくなり、仕事に没頭していた。
一方で、同年代の同僚に比べて、自分は英語に労力を割かれる分、会計・監査の知識経験が不足しているのではないか、かといって、英語も決して満足できるレベルではないと、自分はすべてが中途半端だと感じていた。こうした状況を何とか打破したいと海外出向を志願し、2010年の夏にPwCのニューヨーク事務所に出向した。

 仕事の進め方としては、何よりもスピードが求められ、優先順位を間違ってしまうことは命取りになった。自分のスタッフに対する指示においても期限や優先順位があいまいだと、即座に質問攻めにあった。無力感に苛まされていたときに、一人のスタッフから「あなたのように大人になってから違う国の言語を学び、その国で働くことの大変さは想像もつかないし、それができるあなたのことは本当に尊敬している。一緒に仕事ができて嬉しいと思っている。」と言われたことは本当に救いになり、心を開いて周囲に助けを求められるようになるきっかけになった。一度心を開くととても親身になって助けてくれる人が必ずいたことは嬉しい誤算であった。

日本と米国、二つの全く文化の異なる国で同じ監査という仕事ができたのはとても貴重な経験だった。それぞれに良いところがあり、「価値観」というものが、相対的なものであるということを学べたことは、その後の業務で色々な立場の方たちと向き合う時にとても役に立っていると思う。

2年後帰国すると、監査法人での仕事は、監査だけではなく、アドバイザリー業務も当然のように行うようになっており、私にも機会が巡ってきた。この頃には監査法人でのキャリアも10年を超えていたが、ゼロからのスタートで、1枚の資料を作るのに何日もかかってしまう有様だったが、なりふり構わず周りに教えを請うた。その後数年間、多様なアドバイザリー業務を経験し、自分には無理だと思っていたアドバイザリー業務も、実はクライアントに寄り添い課題を解決する点は監査と同じで、公認会計士の幅広い専門性を生かせる業務だと実感するようになった。

今は金融機関の監査を中心とした業務を行いながら、会計士の採用や所属部門の人事を担当している。採用では、就活生に対し、会計士としての魅力を語っているようで、いつの間にかこちらが初心に気づかされることも多く、そんな瞬間は本当に楽しい。入所以来経験してきたことの多くは、当初は想像もしていなかったことばかりで、改めて、監査法人でできる仕事の幅の広さを感じている。世の中は変化し続けており、会計士が社会課題の解決のためにできることは更に広がって行くと思う。私自身、正直まだ何かを達成したという実感はないが、この業界に入った時にはなれると思っていなかった自分にはなっていると思う。その道のりで絶えず多くの方々に助けていただいた。今後は少しでもそれを周囲の方々に返しながら、社会課題の解決に携わって行きたいと考えている。

※青山学院大学大学院会計プロフェッション研究センターが発行する『青山アカウンティングレビュー第12号』に、PwC Japan有限責任監査法人
パートナー 森 直子の寄稿を掲載いただきました。媒体社の許可を得て、サマリーを掲載しています。

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